
前回、監査は科目単位で分担が決められるという話をしましたが、今回は、現預金の監査手続きの詳細についてのお話になります。 現預金は、残高について評価という話がありません。そのため、現金は、期末残高の実査を行い、預金は、期末残高について確認状による確認という手続きを実施します。現預金は、実査調書や確認状との金額の突合を行えば、概ね監査手続きが完了するので、ある意味非常にシンプルで新人が一番最初に担当する科目になります。
そうはいっても、現預金でも気を付けないといけない点が何点かあります。定期預金がある場合の預入期間の確認。これは、1年以上の定期預金であれば、流動資産の現金及び預金ではなく、長期性預金として固定資産に計上しなければならないためです。また、一般に、キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物は、預入期間が3か月以内の短期の預金のため、預入期間が3か月超の預入・払戻の有無や預金残高を現預金の科目調書で確認をしておくとよいです。定期預金残高の預入期間については、口座ごとにすべて記載をしておくとよいでしょう。ここまでやっておけば、少なくとも先輩からは感心されるでしょう!
簡単といわれる現預金の監査手続きの注意点の2つ目です。定期預金がある場合に、担保に入っていないかどうかについて確認をする必要があります。一般に通帳の実査時に、帳簿上で定期預金口座があるはずなのに、通帳がない場合は、借入の担保などになっている可能性があります。この場合、財務諸表の注記に担保に提供している資産として記載をする必要があります。ちなみに、先ほど記載したキャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物についても、貸借対照表上の現預金とキャッシュ・フロー計算書上の現金及び現金同等物の関係について注記を記載する必要があります。これらの注記項目までしっかり意識して監査調書を作成するといい調書になりますね!
珍しい内容の特殊な預金については、本当に現預金としての計上で良いかどうかの検証が必要になります。例えば、先日付小切手は、通常の小切手が現預金として計上されるのに対し、受取手形となります。日付がブランクになっている小切手をどう取り扱うのかとかも(笑)。他にもトリガー条項付の預金、マルチコーラブル預金等の一見デリバティブにも見えるようなものがあったりします。これらの特殊な預金については、現預金としての計上で良いかどうかの判断が必要になる場合があります。 ところで、一般に貸借対照表科目に直接的に紐づく損益計算書科目は、貸借対照表科目の担当者が主担当として監査を行うことになります。例えば、預金に対する利息、固定資産に対する減価償却費や固定資産売却損益などがこれに該当する関係にあります。現預金の担当者は、受取利息勘定も主担当として見ることになるのですが、近年の低金利時代においては、受取利息勘定は、非常に少額になります。億単位の定期預金があったとしても通常は、監査上は監査意見の表明にあたって重要であるとはみなさない重要性の基準値以下となります。そのため、分析的実証手続きや証憑突合は、効率性の観点から実施しないのが一般的です。残念ながら、ここでどうしても受取利息について分析的実証手続きや証憑突合をやりたくなる人は、非常にセンスがなく、リスクアプローチという監査の原則を忘れている人になります。じつは、結構リスクアプローチに則った監査ができずに、焼畑的にバタバタと全体をバウチングする人って多いんですよね。。。監査は効果的かつ効率的に行いましょう!!
現預金の増減分析の難易度が実はそれなりに高いです。あらゆる科目の増減要因になりうる科目なので、複合的な要因で増減しているためです。よく、現預金の増減理由はキャッシュ・フロー計算書を見ればよいといいますが、その通りだと思います。現預金の監査調書を作成するうえでは、営業活動における増減は、在庫、売上債権、仕入債務などの貸借対照表項目の増減に着目して、簡易で間接法によるキャッシュ・フロー計算書を作り、増減理由とするというのが一般的になっていると思われます。主に営業活動以外で大きなキャッシュ・フローが発生する要因として、税金の支払いや還付、賞与の支払い、大きな借入、返済、配当の支払い等に着眼する方法も一時的なキャッシュ・フロー発生の主な要因を特定する方法となります。したがって、ストックである貸借対照表項目の増減とフローである実際のお金の増減要因の両方にうまく着目してみるといい感じの調書が作成できると思います。
ちなみに、キャッシュ・フロー計算書は、期首の現金及び現金同等物残高をスタートに期末の現金及び現金同等物残高で終わる財務諸表なので、基本的に内訳の入り繰りのエラーしかおきません。唯一スタートやエンドの残高が動く可能性があるのが、定期預金の預入期間の取り扱いに関するエラーに起因するミスです。預入期間が3か月超なのに現金及び現金同等物として定期預金を扱っていた場合等はスタートやエンドの残高を誤ることになります。定期預金の残高は大きいことが多いので、金額的には非常に大きなエラーとなってしまう可能性を秘めています。質的な重要性は、基本的にはほとんどないように個人的には思いますが、このことからも現預金の調書で定期預金の預入期間をしっかり残すことはとても重要ですよね。